インターネットと核攻撃(続)
インターネットの誤解が広まるきっかけになったと言われているTIMEの記事だが、図書館にあったので見てみた。
問題の記述は、TIME international 1994/07/25 の34~40の"Battle for the Soul of the INTERNET"の数カ所で書かれていた。(ネットに全文も転がっていた)
The Internet evolved from a computer system built 25 years ago by the U.S. Defense Department to enable academic and military reserachers to continue to do government work even if part of the network were taken out in a nuclear attack.
この記事に対してテイラーが反論したが、TIME誌はこの記述が正しいとして、テイラーの反論の手紙の掲載を行わなかったのだそうだ。
パケット通信が軍事目的で開発されたと言うことから考えると、インターネットの基礎システムが核戦争対策であったというのに間違いはないのだが……インターネットそのものの目的として考えると何かがおかしい。
TIMEの記述では、核戦争対策と研究者を結ぶと言うことがごっちゃになっているし。
RANDが目的としていたのは、核戦争が起きても断絶することがない指揮統制システムのためのネットワークであり、研究者をつなぐことを目的としてはいなかった。
ARPAは、ARPAの予算で買ったコンピュータのリソースを効率よく使用するためと、研究者を結ぶことが目的であって、核攻撃からも生き残るネットワークなどと言うことは考えていなかった。(ネットワークの効率性が重視されていたため、バランが考えたほどの徹底的な冗長性は採用されていないという)
いったいなんでこんな間違いになったのだろう。
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Comments
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DARPAの資金を調達しながら、軍事目的ではない研究を行えるという仕組みが理解されにくいのだとおもいます。
これには、軍事研究(マンハッタン計画とかレーダー開発とか暗号解読とかSAGE防空システムとか)と
スプートニクショック以降の基礎研究振興策との違いを理解する必要があるのではないか。
http://www-vacia.media.is.tohoku.ac.jp/~s-yamane/articles/hacker/mil-hironobu.txt
以下の記事の最後のあたりも参考になるかと。
http://www.mids.org/mn/904/large.html
インターネット神話の形成について、例のTIMES記事の前に Addison-Wesley から出版された Internet System Handbook の記述を指摘する人もいます。
http://maelstrom.stjohns.edu/CGI/wa.exe?A2=ind0003d&L=cyhist&F=&S=&P=276
また、歴史学徒の Andrew L. Russell は1990年代アメリカの科学史家・科学論者の問題も指摘しています。コンピュータ開発史に冷戦の言説を読み取る研究(p.19)や、インターネットの歴史を「社会的政治的文化的コンテキストに位置づける」(p.20)研究も行われているが、開発現場を説明できないのではないかとか。
http://arXiv.org/abs/cs/0109056
以上
Posted by: YAMANE Shinji | 2004.04.17 02:22 AM
こんにちは。私が思うに
お偉いさん「いったいそんな研究、何になるんだ!!」
研究者「えーっと、核攻撃されたとき(以下略)・・・で、役立つでしょ??ね、ね、だから予算頂戴」
という感じで予算獲得したんじゃないかと。本音と建前ってことで。
インターネット自体は最初ボランティアベースで「つなぎたいからつなぐ」「お金はうーん、要らないや」という責任曖昧、コスト不明瞭で発展してきたネットワークで、全然核攻撃とかいうレベルではないと私も思っています。このへんは、「コミュニケーション・ネットワーク―技術開発の現場から 中公新書 (1398)」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121013980/qid%3D1083175059/250-1867928-6334618
にも書いてあったと思いますが。もしかしてNTTのお偉いさんってこの人だったりはしませんよね?(^^;
Posted by: tnoma | 2004.04.29 03:00 AM
この問題はリアルタイムで気にしていましたが、
軍の神秘性(インターネットはアメリカ軍の秘密研究所で秘密
研究者たちによって開発された!!)とも関連すると思いますし、
さまざまな利害を持つ人々がさりげなく軍が関与している
という方向にじりじりと話を持っていった過程を目にした
ような気もします。
国防目的で構想されたアイデアがベースになっている、が、
国防目的で構築されたに変換され、軍事目的で構築されたに
コンバート、さらに軍が自分達で使うために構築した、
にトランスフォームされ、さらには軍が使っていた
ネットワークが民間に開放された、なとどんどん軍の
重要性を増す方向に変わってきています。
最近のトリビア便乗本で、軍のネットワークと同じものが
大学間に構築され、それがインターネットのベースになったとか
そんなのもあったり。
まあとにかく、軍を関与させたがる偏向力が働いていると
いうことで、気味の悪いトピックだと思っています。
Posted by: ドリフェル | 2004.04.29 07:56 PM